序章

動かないと思っていた骨を動かす

動かないと思っていた場所を、鏡の前で少しずつ動かしながら、思い描いていた骨格と実際に動かせる骨格の違いを確かめます。骨格ねじれ研究所で最初に読んでほしい記事です。

鏡の前で身体をひねると、右へはすっと回るのに、左は途中で引っかかることがあります。片方の肩だけが上がって見えたり、まっすぐ立っているつもりなのに、写真では身体が傾いていたりもします。

私も長いあいだそうでした。骨格ねじれ研究所では、まず、身体の内側にある細かなずれやねじれを、自分で感じられるようになることを目指しています。見た目を「よい姿勢」の型に合わせることは、最初の目標にしていません。

自分の骨格がどこにあるかは、だいたい分かっているつもりの人が多いと思います。頭は首の上にあり、胸郭は骨盤の上にあって、左右の脚でまっすぐ立っている、というふうにです。

ところが、鏡と動作で詳しく見ていくと、想像していた骨格と、実際に使っている骨格の向きが大きく違うことがあります。

下の図は、頭からつま先までの骨格を、身体の芯になる軸骨格(頭・背骨・胸郭)と、そこにつながる付属肢骨格(肩と腕、骨盤と脚)に分けて描いたものです。

全身の軸骨格と付属肢骨格の位置

私の場合、動かない、曲がらないと思っていた場所が動くようになり、取れないと思っていた姿勢も取れるようになりました。そのとき、自分が思い描いていた骨格と実際の骨格が違っていたこと、できないと思っていた動きはできなくなっていただけだったことが分かりました。これが、身体の内側を感じ取るための最初の一歩になりました。

次の図では、思い描いていた骨格と、鏡や動作から見えてきた骨格を並べています。

自分が想像する骨格と、鏡と動作から見えてくる骨格

長く続けた姿勢が「普通」に感じられる

身体がねじれたまま長い時間を過ごすと、その位置が自分にとっての「普通」になります。骨盤が前へ出ていても真ん中に感じますし、胸郭が回っていても正面を向いているように感じます。頭が少し傾いていても、本人はまっすぐなつもりです。

自分ではそれが自然なので、外から「傾いていますよ」と言われても、どこをどう変えればいいのか分かりません。

そのため、姿勢の写真を見て背筋を伸ばすだけでは、なかなか変わりません。「ここはこうなっているはず」という、自分の中の骨格の地図を先に書き換える必要があると考えています。

まず、動かない場所を一つ動かす

とはいえ、最初から背骨や骨盤の細かな位置を正確に感じ取るのは難しいので、課題を小さくします。

  • 動かないと思っていた首を、左右へ少し動かす
  • 動かない胸郭を、骨盤とは別に動かす
  • 上がらないと思っていた肩甲骨を、少し上げ下げする
  • 曲がらないと思っていた背骨の区間を、小さく曲げる
  • 取れないと思っていた立ち位置へ、骨盤全体を移す

一つでも変われば、「動かない作りだと思っていたけれど、動かし方を忘れていただけかもしれない」と思えるようになります。

解剖図を眺めているだけだと、骨格は知識のままです。自分の身体で実際に動きが増えると、それが感覚として分かるようになります。

最初に大きな鏡を用意する

研究所の実践では、最初に全身が映る大きな鏡を用意します。鏡は、身体の内側で感じている位置と、外から見える位置を比べるために使います。

たとえば、自分では頭だけを横へ動かしているつもりでも、鏡では肩や胸郭まで動いていることがあります。骨盤を後ろへ移したつもりでも、腰を反らして形だけ作っていることがあります。

大きな鏡なら頭から足元まで一度に映るので、一部分の変化が全身のどこまで広がっているかを、その場で確かめられます。

内側の感覚
    +
鏡に映る全身
    +
左右・前後の動き
    ↓
自分の骨格地図を更新する

骨格模型を見て、身体の中へ重ねる

鏡では、皮膚の内側にある骨の形までは見えません。そこで、骨格模型や解剖図を使って説明しているYouTube動画を見ます。頸椎(首の骨)がどう積み重なっているか、肩甲骨が胸郭の上にどう乗っているか、骨盤と大腿骨がどこでつながっているか、背骨がいくつもの骨の連なりになっていることなどを確かめます。

その映像を見た後、自分の身体の中に同じ骨格を重ねて想像します。

骨の形を見る
      ↓
自分の身体の中に重ねる
      ↓
一つの区間を小さく動かす
      ↓
鏡で実際の動きを確かめる
      ↓
感覚と見え方の差を修正する
      ↓
全身の動きへ戻す

骨格模型と身体のイメージと鏡を行き来するこの流れを図にすると、次のようになります。

骨格模型、身体イメージ、鏡を循環させる学習

「骨で骨を動かす」とは何か

研究所では、「骨を動かす」「骨で骨を動かす」という言い方をします。骨の形、関節の向き、隣の骨とのつながりを思い浮かべながら、自分の筋肉を使って骨どうしの位置関係を変える、という意味で使っています。手で骨を押して位置をずらすことではありません。

筋肉だけに意識を向けると、「この筋を伸ばす」「この筋に力を入れる」という一か所だけの作業になりがちです。骨の向きを意識すると、何を動かそうとしているのかが変わってきます。

たとえば「首の横を伸ばす」は「頭蓋骨と頸椎の位置関係を横へ変える」と、「胸を張る」は「胸郭と骨盤の向きを分ける」と言い換えます。そう考えると、身体の奥にある動きを探しやすくなります。

「あるべき骨格」について

「あるべき骨格」と言うと、全員が同じ姿勢の型に入るように聞こえるかもしれません。研究所では、左右、前後、回転のどの方向へも動けて、必要な時に戻ってこられる骨格を目指しています。写真で一瞬きれいに見える形とは別のものです。

× 一つの正解姿勢に固定する
○ 複数の方向へ動き、中央へ戻れる

自分が「まっすぐ」だと思い込んでいた位置を疑って、別の位置も選べるようにしていきます。選べる位置が増えるほど、身体の内側のずれを細かく感じ取れるようになると考えています。

エクササイズを実験として行う

ここでのエクササイズは、一つの骨格の区間を動かして、その前後で左右差や立ち方がどう変わるかを見る実験のつもりで行います。

  • 動かす前の位置と可動域(今どこまで動けるか)を見る
  • 骨の形と方向をイメージする
  • 自分で止められる範囲の力で動かす
  • もう一度、位置と可動域を見る
  • 変化した動きを、立つ・歩くの中で使う

私はこれを繰り返しながら、動かなかった場所を一つずつ動かしてきました。そのたびに、思い描いていた骨格と、実際に動かせる骨格の違いが見えてきました。

小さな実験を重ねる

身体の細かなずれは、最初から言葉で説明できるものではありません。私は、動かないと思っていた場所を動かしては鏡で確かめるうちに、身体の内側のずれを前より細かく感じ取れるようになりました。

正しい姿勢の答えを覚える前に、自分の身体にはまだ感じていない動きと、まだ使っていない位置があると知っておいてほしいと思います。骨格ねじれ研究所のほかの記事も、この考えをもとに書いています。

今日やってみるなら、次の三つです。

  • 全身が映る鏡の前に立ち、正面と横から自分の骨盤・胸郭・肩の位置を見る。
  • 「動かない」と思っている場所を一つだけ選び、ほんの少しだけ動かしてみる。
  • 動いた分だけ、鏡に映る自分の姿がどう変わったかを確かめる。

実際に動かす練習は、首から始めます。左右差がいちばん分かりやすく、変化も鏡で確かめやすい場所だからです。首の練習は次の記事に書いています。

この序章から始まる記事7本は、首から全身へ戻る順に並べ直し、記録シートを付けて『私が、自分の骨格のねじれを修正した方法』(PDF)にまとめています。

参照

参考URLと参照範囲

  1. DanceZoneKo(ダンサー裕美)YouTubeチャンネル記事の参考資料https://www.youtube.com/@dancezoneko
  2. ダンス・身体操作の動画を集めたYouTubeプレイリスト記事の参考資料https://www.youtube.com/playlist?list=PLpgteAKgNvytqRbRfaQLAM-hE4aJy4tI3
  3. NHS inform: Exercises for neck problems記事の参考資料https://www.nhsinform.scot/illnesses-and-conditions/muscle-bone-and-joints/neck-and-back-problems-and-conditions/exercises-for-neck-problems/

個別研究やガイドラインは、本記事の観察法や独自理論を証明するものではありません。本文で明示した対象・条件・限界の範囲で参照しています。

このサイトの記事は、ミトン先生の体験と研究所の考えを記録したものです。方針の全文はサイトの方針をご覧ください。