動かす・背骨

背中が一枚の岩のように固いままだと、姿勢は変わりにくい

背中からお尻までが一枚の岩のように一緒に動いてしまう時に、胸郭・腰・骨盤を小さく分けて動かし、横から見た姿勢の奥行きを鏡で確かめます。左右差の見方と、力を出す時の注意も載せています。

鏡の前で横を向いて、腰を反ったり、お尻を突き出したりしてみても、背中からお尻までがまとめて傾くだけで、途中のどこも曲がらないことがあります。

横から姿勢を見る時は、まずここを確かめてみてください。背中から腰、お尻までが、真っすぐな一枚の板のようにつながっていないかどうかです。

私がよい姿勢かどうかを見る時に目安にしているのは、背中が少し後ろへ広がり、腰が前に入って、お尻が後ろへ出る曲線です。お尻をただ突き出した形とは違います。胸郭、腰椎、骨盤、大腿骨の向きがそれぞれ変わることで、横から見た時に前後の奥行きが出ます。

頸椎・胸椎・腰椎・仙骨の位置

反対に、背中からお尻までが一枚の岩のように真っすぐで、どこを動かそうとしても全部が一緒についてくる状態もあります。私自身は、この状態のまま筋トレや一般的なストレッチを増やしても、目指していた姿勢には近づきませんでした。

研究所では、問題は正しい角度を知らないことより、背中をつくっているいくつもの区間が別々に動く、という感覚そのものがなくなっていることにあると考えています。

横から見た背骨の曲線

人の背骨は、真っすぐな一本の棒ではありません。胸の後ろでは後ろへふくらむように曲がり、腰では前へ入るように曲がっています。その下で、骨盤と大腿骨が身体を支えています。

骨盤・股関節・大腿骨頭の位置
頭部
  ↓
胸郭・胸椎    後方への広がり
  ↓
腰椎          前方への入り
  ↓
骨盤・股関節  支える位置と向き
  ↓
大腿骨・足    床へ力を渡す

そのため、横から見た身体には前後の凹凸があります。背中、腰、お尻の輪郭が全部同じ方向へ流れているように見える時、研究所ではまず「胸郭、腰、骨盤が一塊になっていないか」を疑います。

ただ、横から真っすぐに見えるというだけで、医学的な異常や骨盤の病変があるとは言えません。症状のない人でも、背骨と骨盤の曲線にはいくつかの正常な型があることが、研究で示されています。横向きの輪郭は診断に使うものではなく、次に動きを確かめるきっかけとして見ています。

お尻を突き出して曲線を作ろうとした時

横から見た曲線の話をすると、腰を反ってお尻を後ろへ突き出せばいい、と考えがちです。でもそれだと、腰の一か所に、さらに力を集めるだけになりかねません。

形だけを作る骨格の連動から形が生まれる
腰の一か所を強く反る胸郭、腰椎、骨盤、股関節へ動きを分散する
お尻を後ろへ突き出す骨盤と大腿骨の位置関係を変える
胸を無理に張る胸郭を骨盤に対して前後へ動かす
形を固めて維持するその位置へ入り、離れ、また戻れる

写真用のポーズを固めるのが目的ではありません。前にも後ろにも動ける身体になって、立っている時に無理のない位置を選べるようにしたいのです。研究所では、よい横姿は腰を反って作るものというより、いくつもの区間が動けるようになった結果として出てくるものだと考えています。

後ろへ曲がる動きを、いくつかの区間に分けて考える

前へ曲がる動きは、腹筋運動のように身体を丸めたり、前屈して床に手を近づけたりと、多くの人がすぐに思い浮かべられます。ところが後ろへ曲がるとなると、腰の一点で反って、全身で踏ん張る動きになりやすくなります。

研究所で考えている後ろへの動きは、次のように少しずつ伝わっていくものです。

  • 胸郭の上のほうが、少し向きを変える。
  • 胸郭の下のほうが、その動きを次へ渡す。
  • 腰椎のいくつかの区間が、小さく動く。
  • 骨盤が、大腿骨の上で位置を変える。
  • 足が床を受けて、身体が倒れないように支える。

胸椎や腰椎の動きを測った研究でも、体幹を曲げ伸ばしする時は一つの関節だけが動くわけではなく、背骨のいくつもの区間が、それぞれ違う量と順番で動いていることが示されています。ただ、自分の意思で椎骨を一個ずつ完全に別々に動かせる、ということまで分かっているわけではありません。

それでも、背中全体を一度に反らすつもりでいるか、動きがいくつもの区間を順番に通っていくつもりでいるかで、身体の使い方は変わってくると思います。

一枚の岩のような背中と、水のように動く背中

背中が固まっている時の感じは、一枚の岩に近いものです。肩甲骨のあいだを動かそうとすると腰まで動き、腰を動かそうとすると頭までついてきます。右へ動こうとすれば、身体全体が右へ倒れます。目指しているのは、水のように動く感じです。

一枚の岩として動く背中から、波が区間を通る背中へ

水は、一か所に力が加わると、その変化が隣へ伝わっていきます。背骨も同じように、胸郭の上、真ん中、下、腰、骨盤へと動きが伝わっていく状態を目指します。

力を抜けば自然にそうなる、というわけではありません。最初は、今まで使っていなかった方向へ力を出して、塊でしか動かなかった場所のあいだに、小さな動きの違いを作っていく必要があります。

決まった回数のエクササイズと、塊を分ける練習

「この運動を10回やりましょう」と言われると、できる範囲で同じ形を10回繰り返すことになります。でも、できる範囲だけで繰り返していると、いつも動く場所がますます動いて、動かなかった場所はそのまま残ることがあります。

運動の名前よりも、私は次の順番で進めることが必要だと考えています。

  • 全部が一緒についてくる場所を見つける。
  • その中で、一か所だけ違う方向へ動かせないか探す。
  • 動かない側へ、ゆっくり自分の力を伝える。
  • 小さな差が生まれたら、隣の区間へ動きを渡す。
  • 最後に、全身の動きへつなぎ直す。

アイソレーション(胸・首・骨盤など、身体の一部だけを選んで動かす練習)を勧めるのも、身体の塊を分けて、これまで一緒にしか動かなかった場所に別々の命令を出す練習になるからです。

なので、「エクササイズをする」と考えるより、「身体の内側から分離を作る」と考えたほうが、私のやっていることには近いです。

塊を分けてから全身へつなぎ直す練習は、『私が、自分の骨格のねじれを修正した方法』(PDF)で、首のアイソレーション(第2章)から順に書いています。

強い力を出す時も、自分で止められる範囲で

動かなかった場所に初めて力を伝える時は、自分ではかなり強い力を出しているように感じることがあります。今まで使っていなかった方向なので、軽く動こうとしただけでは、力の通り道がそもそも見つからないからです。

ここで言う強さは、勢いをつけて背骨を押し切ったり、手で首をねじって音を鳴らしたりすることとは違います。

内部努力として扱う力避ける力
自分の筋肉で発生させる他人や手で関節を急に押し込む
動きは小さく、速度は遅い反動をつけて端まで動かす
いつでも自分で止められる止められない勢いを使う
呼吸と感覚を保てる痛みや恐怖を無視する
少しずつ方向を探す音を変化の証拠にする

私はこれを「体内で矯正をかける感覚」と呼んでいます。外から形を押し込むのとは違い、身体の内側で、今まで使えなかった方向へ力を出していきます。

首を含む背骨を自分で急にひねる操作については、まれですが重い有害事象の報告があります(記事の最後に載せた文献のうち、2026年のシステマティックレビュー)。痛み、しびれ、電撃痛、脱力、めまい、強い頭痛などが出る方向へは、それ以上動かさないでください。

左右差から、力を向ける方向を探す

身体の中のねじれを探す時、分かりやすいのは左右差です。右には動けるのに左には動けない、片側では胸郭が動くのに反対側では肩ごと上がってしまう、といった違いから、どこが一塊になっているかを探していきます。

右へ動く
  ↓
胸郭だけが移動し、骨盤は支えられる

左へ動く
  ↓
肩・首・骨盤が全部一緒についてくる
  ↓
左方向で「分けて動けない区間」を探す

左右差があるからといって、骨が医学的にねじれているとは限りません。利き手や利き足、やってきたスポーツ、痛み、撮影の角度などでも差は出ます。それでも、自分の動き方を変えるきっかけとしては使えます。

動く側に合わせて、動かない側を力で押しつぶすようなことはしません。動く側で何が分かれて動いているかをよく見て、その関係を動かない側で小さく再現してみます。

大きな鏡で横姿と動きを確かめる

この練習には、大きな姿見を使います。鏡は、自分が動かしたつもりの場所と、実際に動いた場所の違いを見るために使います。

横からの奥行きと、左右の分節運動を鏡で確認する

鏡では、次の順番で見ます。

  • 横から静かに立ち、背中、腰、骨盤、お尻の奥行きを見る。
  • 胸郭だけを小さく前後へ動かす。
  • 骨盤だけを小さく前後へ動かす。
  • 右と左で、動く距離よりも、一緒についてくる部位を比べる。
  • 最後に立ち直り、形を作らずに自然に立った輪郭を見る。

一回で理想の曲線を作ろうとしなくて大丈夫です。昨日は一枚に見えた背中の中に、今日は二つの動きが見える、というくらいの変化を積み重ねていきます。

まとめ

姿勢をよくするために、身体を一本の正しい線に押し込む必要はないと私は考えています。それより、固まっていた場所を分けて、前後左右へ動ける幅を増やしていくほうを先にします。横からの奥行き、左右差、鏡での確認を、ここまでの順番で進めます。

背中が一枚の岩のままだと、できる運動を増やしても、岩をまるごと動かすのがうまくなるだけになりがちです。研究所では、岩の中に区間を作り、区間のあいだに動きを通していくと、背中全体が少しずつ水のように向きを変えられるようになり、その結果として、横から見た姿勢にも奥行きが戻ってくる、と考えています。

今日、鏡の前でやってみること

  • 横向きに十秒立ち、背中・腰・お尻の輪郭に前後の奥行きがあるかだけを見る。形は直さない。
  • 胸郭だけを、腰やお尻を動かさずに、小さく前後させる。
  • 骨盤だけを、膝を動かさずに、小さく前後させる。

最初は、「動かしたつもりの場所」と「実際に動いた場所」がずれていると分かれば十分です。そのずれているところが、岩の中に作る最初の区間になります。この分け方をダンスの動きの中で確かめる話は、「ダンス動画で、振付の奥にある骨格の連動を見る」の記事に書いています。

参照

参考URLと参照範囲

  1. Roussouly P, et al. “Classification of the normal variation in the sagittal alignment of the human lumbar spine and pelvis in the standing position.”(2005)記事の参考資料https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15682018/
  2. Vaz G, et al. “Sagittal morphology and equilibrium of pelvis and spine.”(2002)記事の参考資料https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11931071/
  3. Laouissat F, et al. “The Amount of Proximal Lumbar Lordosis Is Related to Pelvic Incidence.”(2018)記事の参考資料https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29965893/
  4. Morita D, et al. “Range of motion of thoracic spine in sagittal plane.”(2014)記事の参考資料https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24217984/
  5. Ignasiak D, et al. “Multi-segmental thoracic spine kinematics measured dynamically in the young and elderly during flexion.”(2017)記事の参考資料https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28535435/
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  7. Seo HG, et al. “A systematic review of the learning dynamics of proprioception training.”(2023)記事の参考資料https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10847967/
  8. “Adverse events following cervical spine self-manipulation: A systematic review.”(2026)記事の参考資料https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41586491/

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