骨の長さの差と、見かけの差
脚(あし)の長さが左右で違うことを、医学では脚長差(きゃくちょうさ)と呼びます。「脚の長さが違う」には、二つの場合があります。一つは、脚の骨そのものの長さが左右で違う場合です。もう一つは、骨の長さは同じなのに片方が短く見える、見かけの差です。骨盤が左右に傾いている時や、股関節や膝のまわりが硬くなって伸びきらない時(拘縮)に起こります[1]。調べたのは、主に一つめの骨の長さの差についての研究です。測り方を比べた研究と、足の下に台を入れてその場で差を作った実験も含めています。
X線で測った時の、差の大きさと割合
総説(レビュー)は、それまでの研究を集めてまとめた論文です。2005年の総説は、立った姿勢のX線でミリ単位に測った8つの研究を足し合わせています。合わせて573人で、左右の差は0〜20mm、平均は5.21mmでした。何らかの差がある人は90%とされています[2]。
この総説は、カイロプラクティック・オステオパシー系の雑誌に載ったものです。573人は、腰痛の患者、マラソン走者、ボランティアなどを調べた研究の寄せ集めで、一般の人から無作為に選んだ集団ではありません[2]。
脚に症状のない人だけを測った研究もあります。対象はフィンランドのヘルシンキ市の職員193人(平均43歳)で、全員、調べ始めた時点で脚に症状がありませんでした。立った姿勢で股関節のX線を撮り、左右の大腿骨頭(太ももの骨の上端にある丸い部分)の高さを比べています。差が見つからなかった人は12%でした。1〜4mmが32%、5〜8mmが38%、9〜12mmが11%、12mmを超えた人が6%で、いちばん大きい差は26mmです[4]。
差が見つからない人が1割前後という点は、二つの資料で同じでした。ただ、193人は、総説が足し合わせた研究の一つと同じ集団の人たちなので、別々に確かめた数字とは言えません[2][4]。
| 資料 | 調べた人 | 測り方 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 8研究を足し合わせた総説[2] | 573人(腰痛の患者、マラソン走者、ボランティアなど) | 立った姿勢のX線 | 差の平均は5.21mm。何らかの差がある人は90% |
| ヘルシンキ市の職員の研究[4] | 脚に症状のない193人(平均43歳) | 立った姿勢の股関節のX線 | 差が見つからない人は12%。10mm(1cm)以上は15% |
| 米国のMOST研究[5] | 50〜79歳の2,964人(登録した3,026人のうち、脚の長さを測れた人。膝の変形性関節症があるか、なる危険が高い人) | 脚全体を写した立った姿勢のX線 | 1cm以上は14.5%。2cm以上は0.9% |
| MOST研究とOAI研究を合わせた解析[6] | 二つの研究の参加者(膝の変形性関節症があるか、危険が高い中高年) | 脚全体を写したX線 | 1cm以上は12%。2cm以上は1% |
1cm以上の差がある人は、表の3つの研究で12〜15%でした[4][5][6]。総説が2,978人を合わせた別の集計では、10mm以上が20.1%です[2]。表の下二つの研究は、膝の関節の病気がある人や、なる危険が高い人を集めたもので、どちらもMOST研究の参加者を含みます。2cm以上の差があった人は、この二つで0.9%と1%でした[5][6]。
メジャーや手で測る方法の正確さ
画像を使わずに手で測る方法には、骨盤の前の出っ張りから内くるぶしまでをメジャーで測る方法、足の下に板を入れる方法、うつ伏せや仰向けに寝て左右の脚を比べる方法などがあります[1][3]。
論文42本を集めた2008年のレビューは、メジャーや板を使う方法を、ふるい分けには役立つが画像ほど正確ではない、とまとめています[1]。2021年の系統的レビュー(決めた手順で論文を集めてまとめたもの)は、手で測る方法のほとんどについて、使ってよいか疑問があるとしました。妥当性(測りたいものを正しく測れているか)と信頼性(測り直しても同じ結果になるか)がいちばん高そうな方法に挙げたのは、脚全体を正面から写した立った姿勢のX線です[3]。
メジャーの評価は、レビューによって割れています。2021年のレビューは、メジャーは妥当性と信頼性が劣る、という強い証拠があるとしています[3]。メジャーだけを扱った2019年の系統的レビュー(論文11本)は、健康な人では信頼性も妥当性も受け入れられる水準にあり、肥満の人や筋骨格の病気のある人では妥当性が足りない、と結論しました。骨盤が傾いている人では実際と違う結果になりうる、とも書いています[7]。
2008年のレビューが紹介している子ども190人の研究では、足の下に板を入れる方法で測った値の95%が、X線の値より14mm小さい値から16mm大きい値までの範囲に入りました。メジャーはこれより一致が悪かったとされています[1]。同じレビューが扱った研究では、手で測る方法でも、測る人が替わった時に結果がそろう度合いは高いものが多く、低かったのは画像の値との一致のほうです[1]。
うつ伏せに寝て比べる方法をX線と比べた研究は2本で、良い結果と悪い結果に割れていました。仰向けで比べる方法は、妥当性が低いとした研究がありますが、レビューは証拠の強さを低〜中程度とし、結論を出すにはさらに研究が要るとしています[3]。
画像で測る方法にも誤差はあります。MOST研究の2,964人を測った研究の著者は、X線を使っても脚の長さの測定は完全ではないと書き、手で診る方法では0.5cmの差を十分な正確さで測れないかもしれない、とも述べています[5]。
小さな差と腰痛の関係
2005年の総説の集計では、症状のある347人の差の平均が5.1mm、症状のない165人の平均が5.2mmで、統計的な違いはありませんでした[2]。
腰痛との関係を直接調べた1991年の研究は、35〜54歳の男女247人をX線で測っています。腰の不調が一度も無かった53人の差は平均5.5mm(最大20mm)、過去12か月に生活に支障の出る腰痛があった78人は平均5.3mm(最大17mm)で、違いは見られませんでした。著者は、小さな差と腰痛の関連は疑わしいとしています[8]。先に挙げた193人は、この研究と同じ集団の人たちです[4]。
1984年の症例対照研究(症状のある人とない人を比べる研究)も、専用の器具で脚の長さの差を測り、慢性の腰痛との関連は見つからなかったと報告しました[9]。
関連があったとする研究もあります。フィンランドの食肉会社で、立ち仕事の食肉加工114人と座り仕事の顧客対応34人を、レーザーと超音波を組み合わせた装置で測った2015年の研究です。6mm以上の差がある人は、食肉加工で49%、顧客対応で44%でした。全体では、6mm以上の差がある人のほうが腰痛が強く、腰痛のあった日数も多くなっていました。職種で分けると、関連が見られたのは立ち仕事の人だけです[10]。
ただし、立ち仕事と座り仕事で関連の出方が違うとまでは、統計的に確かめられていません。一時点の調査なので、差が腰痛の原因かどうかは分かりません。腰痛の強さと日数は本人の回答です。著者自身も、関連を見つけられなかった研究が多く、証拠は食い違っていると書いています[10]。
歩き方と、立った姿勢の変化
2010年の研究は、下肢に障害のない26人(平均30歳)の大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)の長さを、DXA(二重エネルギーX線吸収測定法。X線を使う測定装置)で測りました。差の平均は0.8cm(8mm)、範囲は0.0〜2.3cmです。歩く動作を三次元で解析すると、差が大きい人ほど、膝と足首の関節モーメント(関節を回す作用)とパワー(仕事率)の左右対称性が低い、という相関がありました。関節の角度など、ほかの指標では有意な(偶然とは考えにくい)相関は出ていません。1cm以上の差がある7人を含めて、全員に症状はありませんでした[11]。
著者は、この相関の一部が、比較的少ない人数の結果によるものだと書いています。1cm以上の差があっても、ほぼ左右対称に歩く人がいました[11]。
歩き方の研究12本をまとめた2017年の系統的レビューは、1cmを超える差で歩き方の偏りが起こりうること、差が大きいほど影響が大きいことを報告しています。12本のうち8本は、健康な人に1〜5cmの底上げをして差を作った研究でした[12]。
立った姿勢については、健康な100人(平均34歳)の片足の下に台を入れ、その場で差を作った2013年の実験があります。台を10mmきざみで60mmまで高くし、60秒立ったあとの骨盤と背骨の形を、背中の表面を光で測る装置で測っています。台が高いほど骨盤は傾き、背骨の左右方向の指標に有意な変化が出たのは20〜30mmの段階からでした。台を入れない普通の立ち方でも、骨盤の左右の高さには平均4.23mmの差がありました[13]。
まだ分かっていないこと
何mmの差から問題になるとみなすかには、合意がありません。2005年の総説によると、挙げられている値は5mmから30mmまで幅があります[2]。2002年の総説も、脚の長さの差がどの程度の影響を及ぼすのか、どのくらいの差から影響が出るのかについて、著者によって意見が分かれているとしています[14]。
2005年の総説の著者は、骨の長さの差はほとんどの人にあるが、平均は小さく、医療の場で問題になるほどの意味(臨床的な意義)はなさそうだと結論しています[2]。ただ、立ち仕事の人で6mm以上の差と腰痛に関連があった研究のように、この結論と合わない報告もあります[10]。
小さな差が長い年月のあいだにどう影響するかについて、2019年の総説は、文献にあまり記録されていないと書いています[15]。歩き方を調べた26人は平均30歳で、年齢を重ねた後のことはこの研究からは分かりません[11]。
日本人の一般の人で、差がどのくらいの人にあるかを測った研究は、調べた範囲では見つかりませんでした。
参照
参考URLと参照範囲
- 脚の長さの測り方を比べた文献レビュー(Sabharwal S, Kumar A、2008年、Clin Orthop Relat Res)全文。骨の長さが同じでも短く見える場合があること、メジャーや板を使う方法と画像の比較、子ども190人の研究の紹介、測る人が替わった時の一致。差がどのくらいの人にあるか、症状と関係するかは扱っていません。子ども190人の研究は、このレビューの紹介文で読んだもので、元の論文は確かめていませんhttps://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2628227/
- 骨の長さの差の割合と大きさをまとめた総説(Knutson GA、2005年、Chiropr Osteopat)全文。8研究573人の集計(平均、範囲、差がある人の割合)、2,978人の集計、症状の有無での比較、何mmから意味があるかの幅、著者の結論。カイロプラクティック・オステオパシー系の雑誌に載った、著者1人の総説です。集計は腰痛の患者などを含む複数の研究を足したもので、一般の人から無作為に選んだ集団の割合は示しませんhttps://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1232860/
- 測り方の妥当性と信頼性の系統的レビュー(Alfuth M, Fichter P, Knicker A、2021年、PLoS One)全文。手で測る方法全体の評価、メジャー、うつ伏せと仰向けで比べる方法、基準になる画像の方法。数字を一つにまとめる統合(メタ解析)はしていません。著者自身が予備的な結果と書いています。差がどのくらいの人にあるかを自分で測った資料ではありませんhttps://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8687568/
- 脚に症状のない193人の立位X線の研究(Tallroth K, Ristolainen L, Manninen M、2017年、Acta Orthop)全文。調べ始めた時点の差の分布、10mm以上の割合と最大の差。対象はフィンランドの中年の市職員で、年齢・民族・職業が限られます。[8]と同じ集団で、[8]は[2]の集計に入っているため、[2]と完全に別々の裏付けではありません。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5560214/
- 50〜79歳の2,964人(登録は3,026人)の立位X線の研究(Harvey WF ほか、2010年、Ann Intern Med)全文(著者原稿)。1cm以上・2cm以上の差がある人の割合、X線の測定の誤差と手で診る方法についての著者の記述。対象は膝の変形性関節症があるか、なる危険が高い人で、一般の人の割合は示しません。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2909027/
- MOST研究とOAI研究を合わせた解析(Kim C ほか、2018年、Arthritis Rheumatol)全文(著者原稿)。1cm以上・2cm以上の差がある人の割合。対象は膝の変形性関節症があるか危険が高い中高年で、一般の人の割合は示しません。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6160315/
- メジャーで測る方法の系統的レビュー(Farahmand B ほか、2019年、Med J Islam Repub Iran)抄録(論文の要旨)・結論・限界の節。健康な人とそれ以外の人での評価、骨盤が傾いている人についての記述。英語の論文だけを集めています。集めた研究は、対象・測る点・基準の検査がそろっていません。個々の研究の表は確かめていませんhttps://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6708090/
- 35〜54歳の247人のX線と腰痛の研究(Soukka A ほか、1991年、Spine)抄録。腰の不調が無い人と腰痛のあった人の差の平均と最大、著者の結論。対象の選び方や調整した要因は分かりません。抄録にある最大の差は、比べた二つの群で20mmと17mmです。それより大きい差については分かりませんhttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1828627/
- 脚の長さの差と腰痛の症例対照研究(Grundy PF, Roberts CJ、1984年、Lancet)抄録。慢性の腰痛との関連が見つからなかったこと。抄録が短く、人数、測定の精度、差の大きさは分かりません。X線で測った研究ではありませんhttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6146810/
- 立ち仕事と座り仕事の148人の研究(Rannisto S ほか、2015年、BMC Musculoskelet Disord)全文。6mm以上の差がある人の割合、腰痛との関連、職種で分けた結果、限界、これまでの研究についての著者の記述。一時点の調査で、差が腰痛の原因かどうかは示しません。X線で測った研究ではありませんhttps://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4433073/
- 健康な26人の脚の長さの差と歩き方の研究(Seeley MK ほか、2010年、J Sports Sci Med)全文。差の平均と範囲、歩く時の左右対称性との相関、症状の有無、限界。相関を見た研究で、原因は示しません。歩き方の左右差が害になるかどうかも示しません。測ったのは大腿骨と脛骨の長さで、足の高さや骨盤は入っていませんhttps://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3761822/
- 脚の長さの差と歩き方の系統的レビュー(Khamis S, Carmeli E、2017年、Gait Posture)抄録。1cmを超える差と歩き方の偏り、集めた研究の内訳。1cm未満の差については抄録に書かれていません。歩き方の違いが不調につながるかは扱っていませんhttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28600975/
- 健康な100人の片足の下に台を入れた実験(Betsch M ほか、2013年、Eur Spine J)全文。台の高さと骨盤・背骨の変化、台を入れない時の骨盤の高さの差、対象から除いた人、限界。その場で作った差への反応で、長年ある差の影響は示しません。立った姿勢だけを調べていて、歩行は見ていませんhttps://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3676572/
- 脚の長さの差についての総説(Gurney B、2002年、Gait Posture)抄録。影響の程度と、どのくらいの差から起こるかについて、著者の意見が分かれていること。抄録に数字はありませんhttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11869914/
- 小さな差の自然な経過についての総説(Gordon JE, Davis LE、2019年、J Pediatr Orthop)抄録。小さな差の長期の影響があまり記録されていないこと。抄録にある割合の数字は、出どころを確かめられなかったので使っていませんhttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31169640/
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