動かす・再統合 02

ダンスの上達のために、普段の立ち方と歩き方を鏡で見る

ダンスが上手な先生は、立っているだけ、歩いているだけでも格好いいと私は感じています。ダンスの練習と並行して、普段の立ち方と歩き方を鏡で確かめる方法を書いています。

スタジオでは、音楽がかかる前の時間があります。壁際に立って順番を待っている人がいて、鏡の前を何気なく横切る人がいます。私はその姿を見ると、その人がどう踊るかが、もう見えてしまいます。

腕をどこへ出すか、足を何歩動かすかは、まだ何も始まっていません。それでも、いつもの重心(体重が乗って支えられている位置)や、いつもの首、肩、骨盤の状態は、待っている姿にそのまま出ています。

これはストリートダンスを習っている人だけの話ではありません。踊らないけれど姿勢を整えたい人にも、私が最初に伝えたいことです。

普通に立った姿や歩いた姿が格好よく見えないまま、振付の瞬間だけを格好よくするのは、かなり難しいと私は考えています。形を決めた一瞬は整えられても、動きと動きの間で、身体はいつもの配置へ戻ってしまうからです。下の図は、その土台になる軸骨格(頭・背骨・胸郭という身体の中心の柱。胸郭は肋骨で囲まれた胸のかご)と、付属肢骨格(腕と脚、それを胴体につなぐ骨)の全体を示したものです。

全身の軸骨格と付属肢骨格の位置

私は、何もしていなくても、立っているだけ、歩いているだけで格好いい身体を目指しています。それを、ダンスの技術と同時につくっていきたいと考えています。

音楽が始まる前の立ち姿

私が見る限り、本当に上手な先生は、難しい技をしていないときにも格好いいです。説明のために普通に立つ、数歩だけ歩く、片足へ体重を移す。それだけで、身体の線と流れが見えます。

振付の形だけを覚えようとすると、音が鳴っている間だけ身体を別の形へ押し込み、音が止まるとすぐ元の配置へ戻ってしまいがちです。これは技術が足りないというより、技術を受け止める身体の土台がまだ育っていないからだと私は見ています。

踊りの場面ごとに、身体のどこに何が出るかを表にしました。

見る場面そこに現れるもの
音楽を待って立っている時頭、胸郭、骨盤、足の積み重なり方
スタジオ内を歩く時片脚から反対脚への重心移動、左右差、リズム
振付へ入る直前余分な力を抜いたまま、すぐ動けるか
ポーズとポーズの間作った形ではなく、普段の身体の使い方
踊り終わった直後動きから自然な立位へ戻れるか

踊りの格好よさは、決めのポーズのときに限らず、始まる前から移動中、終わった後まで続く身体の流れにも出ると思っています。

上手い先生が普通に立っているとき

上手い先生の身体をよく見ると、胸を張ったり、首を長く見せようと力んだり、腰を反って脚を長く見せたりはしていません。

頭が身体の上に無理なく乗っていて、肩と胸郭は固まらずに呼吸と一緒に動いています。骨盤は前へ押し出されたままにならず、脚の上で重心の位置を選べます。膝と足先は次の一歩へつながる方向を向いていて、片側へ体重を乗せても、反対側へすぐ移れます。そして、力を抜いた姿から、必要な瞬間だけ力を出せます。

こうした立ち方の下には、足首から踵にかけての土台があります。次の図で、足の骨の位置を確かめてください。

足首・踵・足部の骨の位置

私はこういう状態を、ふだんの言葉で「骨格が整っている」と呼んでいます。骨が一本の正しい線に固定されている、という意味ではありません。

頭、胸郭、背骨、骨盤、脚がつながりながら、それぞれ必要な方向へ動ける状態のことです。次の図は、同じように待っている姿勢でも、動ける身体とそうでない身体で何が違うかを描いたものです。左右の重心線と、次にどちらへ動けるかを示す矢印を比べてみてください。

一塊の待機姿勢と、次へ動ける待機姿勢

傾きや崩しを自分で選べるか

ストリートダンスは、背筋を伸ばして一つの姿勢を守り続けるものではありません。身体を傾ける、胸を落とす、骨盤をずらす、左右非対称の形を作る、わざと重心を外して崩れたように見せる、といった表現がたくさんあります。

ですから、傾かないようにする必要はありません。それより、傾きを自分で選べているか、崩した形に入ってそこから別の形へ移り、必要なときには戻れるかを見ます。

音に乗って身体を弾ませたり沈めたりする「グルーヴ」も、自分で選んで崩す動きの一つです。

見た目は同じ「傾き」身体の中で起きている違い
表現として選んだ傾き自分で方向と量を決め、反対方向へも移れます
いつも同じ側へ落ちる傾き反対側へ移りにくく、首や肩が代わりに力みます
グルーヴとして作る沈み胸郭、骨盤、膝が順番を持って連動します
普段から抜けない沈み骨盤や胸郭が一つの位置へ残り、動き出しが遅れます

どの形も選べる身体にしたいので、まず普段の立ち姿を観察します。

普段の立ち姿で見ること

ただ立っているときには、振付や勢いで隠れていた癖がよく見えます。骨盤が前へ流れている、胸郭が片側へ回っている、片方の肩だけが上がっている、膝がいつも軽く曲がって足の一部だけに体重が集まっている、といった癖です。本人には普通でも、鏡で見ると向きの違いがはっきり分かることがあります。

見た目のよしあしを一本の垂直線で採点するつもりはありません。立ち姿では、次のことを確かめます。

  • 両足のどこへ体重が乗っているか。
  • 骨盤が足より前、後ろ、左右のどこへ移動しているか。
  • 骨盤と胸郭が同じ方向を向いているか、別々に回っているか。
  • 肩甲骨(背中側にある肩の平たい骨)の片側だけが持ち上がったり、前へ出たりしていないか。
  • 頭を正面へ向けるために、顎や首へ余分な力を使っていないか。
  • その姿勢から、前後左右のどちらへも一歩を出せるか。

ここで見つけた左右差や動きにくさは、振付の中にもそのまま出てきます。立った状態で右へ体重を移せない人は、右へ大きくステップするときにも、肩や上半身で距離を稼ごうとします。胸郭が一方向へ回りにくい人は、ターン(回転)やウェーブ(身体を波のように順番に通す動き)の途中で、別の場所を大きく動かします。

私は、立っているときの姿勢も、踊りが始まる最初の一コマとして見ています。

歩き方で見ること

歩くことは、右脚と左脚へ交互に体重を渡す運動です。片足で支えて反対の足を運び、身体全体を次の位置へ移します。これは、ステップやグルーヴ、方向転換の土台と重なります。

歩く姿では、片側に乗っている時間が極端に短くないか、一歩ごとに骨盤が前へ流れすぎていないかを見ます。腕だけを大きく振って胸郭が固まっている、片方の足先だけが外や内を向いている、といった癖も確かめます。頭の揺れが上下左右に大きすぎないか、急いで足を置かずに体重を受け渡せているかも見ます。

ラテンダンスの経験者を対象にした小規模な研究では、ダンスをしない人と比べて、歩行の左右対称性やバランスに差が報告されています。クラシックバレエのダンサーについて、静止時と動作時のバランスを調べた研究をまとめたレビューもあります。どちらもストリートダンスを対象にした研究ではありません。また、ストリートダンスを習えば誰でも同じ歩き方になるとか、歩き方の見た目だけで技量が分かるということを示したものでもありません。

歩き方を取り上げたのは、普段の重心の移り方をいちばん身近に観察できる動作だからで、診断に使うつもりはありません。

振付の練習と身体づくりを一緒に進める

振付を覚える練習は必要です。リズム、タイミング、グルーヴ、強弱、音の取り方、表情も欠かせません。けれども、身体がいつもの一方向へ戻り続けるなら、覚えた形を毎回そこから作り直すことになります。

そこで研究所では、ダンスの技術と身体づくりを別々の科目にはしていません。動かない区間を分ける練習には、アイソレーション(首や胸郭、骨盤など、身体の一部だけを止めて動かす練習)とウェーブを使います。

普通に立つ・歩く姿を鏡で見る
        ↓
重心、首、胸郭、骨盤、足の左右差を見つける
        ↓
アイソレーションやウェーブで、動かない区間を分ける
        ↓
小さなステップへ重心移動をつなぐ
        ↓
振付の中で、同じ場所が再び固まらないかを見る
        ↓
もう一度、立位と歩行へ戻して確認する

次の図は、この流れを大きな鏡の前の五つの場面で描いたものです。自然に立つところから始まって、また自然に立つところへ戻ります。

立位と歩行から振付へ進み、再び立位へ戻る

これを繰り返すと、振付で間違えた場所を見るときに、その間違いの元になっている普段の身体まで戻って考えられます。

鏡の前での確認のしかた

大きな鏡の前では、振付を踊っている自分のほかに、何もしていない自分も見ます。私が勧めている確認は簡単です。

  • 力を抜いて十秒立つ。
  • 正面、横、後ろから、頭頂から足元まで見る。
  • いつもの速さで数歩歩く。
  • 右と左へ体重を移す。
  • 一つのアイソレーションを行う。
  • 短い振付を踊った後、もう一度何もせずに立つ。

このとき、理想の姿勢を演じようとしすぎないでください。胸を張り、顎を引き、お腹に力を入れた撮影用の姿勢では、普段の重心が見えません。最初は、無意識に戻っていく姿勢のほうを見てください。

続けていくうちに、昨日は取れなかった位置へ少し移れるようになったか、片側にしか乗れなかった重心を反対側へも渡せるようになったかを見ていきます。こうして、選べる位置を少しずつ増やしていきます。

立ち方・歩き方と踊りの関係

立ち方や歩き方だけで、ダンスのすべてが決まるわけではありません。音楽をどう聴くか、どこで止まってどこで抜くか、どんな感情を表すかは、立っているだけでは身につきません。

それでも、普通に立つことと歩くことは、どの動きの下にもあります。そのため、振付のときだけ格好よく見せようとはせず、何もしていないときの頭、胸郭、骨盤、足を観察します。固まった場所はアイソレーションで分けて動かし、歩くときには左右へ体重を渡す練習をします。その身体の上に、リズム、グルーヴ、技術、表現を重ねていきます。

上手い先生は一日中特別なポーズを作っているわけではないのに、普通に立っていても格好いいです。普段の立ち方がそのまま次の動きにつながっているからだと思います。

踊りは、振付に入る前の立ち方や歩き方から、もう始まっていると私は考えています。上達したい人には、技術と一緒に、その技術が乗る身体もつくっていくことを勧めています。踊らない人にとっては話はもっと単純で、何もせずに立っているときの身体が、そのままその人の姿勢です。

十秒だけ立ってみる

  • 力を抜いて十秒立ち、左右どちらに体重が寄っているかだけを鏡で確認する。
  • 気づいた偏りを直そうとせず、まずは「今の自分の癖」として眺める。

これだけでも、次にどこを分けて動かせばよいかの見当がつきやすくなります。

参照

参考URLと参照範囲

  1. Krasnow D, et al. “When Task Constraints Delimit Movement Strategy: Implications for Isolated Joint Training in Dancers.” *Journal of Dance Medicine & Science*(2020)記事の参考資料https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33345041/
  2. Liu YT, et al. “Superior gait performance and balance ability in Latin dancers.”(2022)記事の参考資料https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36091673/
  3. Rangel JG, et al. “Studies of Classical Ballet Dancers' Equilibrium at Different Levels of Development and Versus Non-Dancers: A Systematic Review.”(2020)記事の参考資料https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32093823/
  4. Daprati E, et al. “A Dance to the Music of Time: Aesthetically-Relevant Changes in Body Posture in Performing Art.”(2009)記事の参考資料https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2656638/
  5. “Professional dancers’ beliefs and conceptualisations of their posture and movement: A qualitative research study.”(2026)記事の参考資料https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12885312/
  6. Pavlović M, et al. “Body asymmetries as risk factors for musculoskeletal injuries in dancesport, hip-hop and ballet dancers?”(2022)記事の参考資料https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36445245/
  7. Dance Zone Ko(ダンサー裕美)YouTubeチャンネル。ダンス練習の着想資料記事の参考資料https://www.youtube.com/@dancezoneko
  8. ダンス・身体操作の動画を集めたYouTubeプレイリスト。実践上の着想資料記事の参考資料https://www.youtube.com/playlist?list=PLpgteAKgNvytqRbRfaQLAM-hE4aJy4tI3

個別研究やガイドラインは、本記事の観察法や独自理論を証明するものではありません。本文で明示した対象・条件・限界の範囲で参照しています。

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