整体を受けた帰り道は、身体が軽く、首も少し回るようになっていました。ところが二日、三日たつと、また同じ場所が凝って、同じ側の足に体重が乗っていました。私はこの行ったり来たりを、何年も繰り返しました。
一時期は、週に3回から4回、整体に通っていました。それでも、私が本当に変えたかったものは、何度通っても残りました。骨盤と背骨のねじれ、左右で違う重心のかかり方、肩甲骨や首の詰まり、動かそうとしても動かない区間、そして元の姿勢へ戻ってしまう身体の癖です。
下の図は、頭からつま先までの軸骨格と付属肢骨格の位置を示したものです。いま挙げた骨盤、背骨、肩甲骨がどこに当たるかを確かめてください。
マッサージや整体を否定したいわけではありませんし、施術する人を軽く見るつもりもありません。ただ私の場合、外から整えてもらうことと、自分の中で力を作って骨格を動かせるようになることは、別のものでした。私の身体が変わり始めたのは、内側から骨格へ力を伝える方法を覚えてからです。
下の図は、外から加わる力と、自分の中で作る力を並べたものです。どこが違うかを見比べてください。
週3〜4回通っても、元の身体へ戻った
施術を受けた直後に変化があるのは確かで、張りが減り、首や肩も少し動かしやすくなります。けれども普段の生活に戻ると、同じ場所が詰まり、体重も同じ側にかかって、いつもの姿勢に落ち着いてしまいました。
| 施術直後に感じた変化 | 長く残った問題 |
|---|---|
| 凝りや張りが軽くなる | 骨盤と背骨の向きは元へ戻る |
| 身体が楽になる | 左右の動かしにくさが残る |
| 一時的に可動域が広がる | 自分ではその位置を再現できない |
| 押された場所が緩む | 離れた場所とのつながりは変わらない |
外から受ける施術は、その場の症状を軽くしてくれますし、自分では気づかなかった場所を教えてくれることもあります。ただ、私の身体では、それだけで身体の使い方までは変わりませんでした。
何もしていないのに、全身がまた硬くなる
施術を受けた日は楽でも、翌日か数日後には全身がまた硬くなり、何もしていないのに疲れていました。これを繰り返すうちに、骨格の向きがずれたままだと、表面の張りを取っても、骨盤、背骨、胸郭、肩甲骨、首が互いに引っ張り合う並び方が残り、休んでいる間もどこかで引っ張り合いが続いているのではないかと、自分の経過から疑うようになりました。
背骨は、小さな骨がいくつも連なってできています。本来はそれぞれの区間が少しずつ回って、全体で動きを分け合うはずです。
ところが私の身体では、いくつかの区間が、曲がった向きや回った向きのまま固まっていました。別々に回るはずの骨が一枚の板のように一緒に動き、ほかの場所が代わりに動いている感じです。
骨格の向きにねじれが残る
↓
立つだけでも一部へテンションがかかる
↓
周囲が硬くなり、別の場所が代わりに動く
↓
施術で緩んでも、元の使い方へ戻る
↓
同じ張りや左右差が作り直されるこれは画像検査で骨の角度を測って出した結論ではありません。私が長く自分の身体で経験してきたことから作った、研究所の仮説です。それでも、緩めてもまた硬くなるのはなぜかを考えるとき、私にはこの考え方がいちばん筋が通って見えました。
外力と内力の違い
ここでいう外力は、施術者の手や器具、床など、身体の外から加わる力です。内力は、自分の筋肉を使って身体の中で作る力です。この二つの違いは、力の強い弱いとは別のところにあります。
| 外から加わる力 | 自分の中で作る力 |
|---|---|
| 施術者が方向と量を決める | 自分の感覚で方向と量を調節する |
| 身体は受け手になりやすい | 身体が自分で動きを作る |
| 一つの場所へ力を加えやすい | 離れた複数部位を同時に連携させられる |
| 施術中の変化になりやすい | 日常動作で再現する練習になる |
| 強い力には安全上の限界がある | 自分の反応を感じながら止めたり変えたりできる |
内力なら必ず安全、というわけではありません。それでも自分で動きを作るときは、どの角度で引っかかるか、どこへ力が逃げるかを、その場で感じながら加減できます。私の場合、強い力そのものより、身体の中で狙った方向へ力を通せるかどうかのほうが大事でした。
動かしたい区間に力が届かない
背骨を動かしたいのに腰だけが反ったり、肩甲骨を動かしたいのに肩関節だけが動いたり、骨盤を動かしたいのに膝へ力が逃げたりします。動きやすい場所が先に動いて、固まった場所はそのまま残ってしまいます。
身体の奥で骨格が固まっていると、外から押された力も、動かしたい区間まで届くとは限りません。
筋膜や筋肉の表面を緩めるやり方にも意味はあります。ただ、骨格の並びが同じ引っ張り合いを作り直しているなら、表面を緩めても変化が長続きしないことがあります。少なくとも私の身体では、緩めることと、固まった区間を別の方向へ動かせるようになることは、別の作業でした。
外から一方向へ押される
↓
動きやすい場所が先に動く
↓
固まった場所は残る
骨の形と方向を身体内部で想像する
↓
自分の筋肉で複数方向の力を作る
↓
逃げる場所を感じて、その場で修正する
↓
狙った区間が動く方向を探す右へ動かすと途中で止まる、左肩へ力が逃げる、骨盤を回すと首まで一緒に動く、といった小さな引っかかりは、外からは見えにくくても本人には分かります。この感覚を頼りに、力の方向を何度でも調節し直せるところが、外力と内力のいちばん大きな違いだと私は思っています。
強い力と、自分で止められること
長く固まっていた場所を動かすとき、私は自分の中でかなり大きな力を出している感覚がありました。触れるだけで可動域が増えたわけではありません。
ただ、ここでいう強い力は、反動をつけて関節を一気にひねることとは違います。次の範囲に収まる力のことです。
- 自分で始められる
- 自分で止められる
- 方向を少しずつ変えられる
- どこへ力が逃げたか感じられる
- 同じ動きを小さな範囲から繰り返せる
全力を出す必要はなく、この範囲に収まる力で足ります。強く動かすのは、自分で完全に制御できるようになってからです。
私の場合、1日や2日で片づく作業ではありませんでした。最初は動かせる気がしなかった方向へ、ごく小さな範囲から力を通し、それを1週間、2週間、3週間と続けました。身体がその方向の力を作れるようになってから、少しずつ負荷を上げました。
ほかの人が外から大きな力をかける場合、本人が感じている引っかかりや限界までは完全には共有できません。とくに首は失敗したときの危険が大きいので、かけられる力にはどうしても限りがあります。
自分でやれば、違和感が出たところで止めて、角度や力を変えられます。この「止められる」という点が、私が自分で調整するほうに重点を移した理由でした。
なお、首や背骨を速く強くひねることは、内力であっても安全とは限りません。鋭い痛み、しびれ、めまい、吐き気、力が入らない感覚が出たら、その動きは中止して医療機関へ相談してください。
「バキバキ」という音や感覚について
内側から力をかけていくと、今まで動かなかった場所が「バキバキ」と動くような音や感覚が出ることがありました。そのあとで、可動域や姿勢の取りやすさが変わったこともあります。
ただ、音が鳴ったからといって、骨格が正しい位置に戻ったとは言えません。
| 観察するもの | 目的にしないもの |
|---|---|
| 左右の可動域がどう変わったか | 音を鳴らすこと |
| 同じ姿勢を自分で再現できるか | 一度に大きく動かすこと |
| 詰まりが別の場所へ移っていないか | 痛みに耐えて突破すること |
| 立位や歩行で新しい動きを使えるか | 「骨が入った」と即断すること |
「バキバキ」は、私が変わっていく途中で経験したことの一つです。音よりも、前は動かなかった場所を自分で制御しながら動かせるようになったことのほうが、私にとっては大きな変化でした。
動かし方を身につけるまでの流れ
外から形を変えてもらっても、自分でその位置を作れなければ、施術が終わったあとには再現できません。内側から動かす練習では、次の流れを繰り返しながら、身体に動かし方を覚えさせていきます。
動かす前の左右差を見る
↓
骨の形と方向を想像する
↓
自分で力を作って動かす
↓
鏡で実際の動きを確認する
↓
力の方向を修正する
↓
立位・歩行・ダンスで使うこれを繰り返していくと、身体のどこが動き、どこへ力が逃げ、どこが固まっているかを、細かく感じ取れるようになっていきます。
最初に、大きな鏡を置いてほしい
自分で調整する時間を増やした頃、私は大きな姿見の前で、肩、胸郭、骨盤、膝、足先の向きを何度も確かめていました。
自分では真ん中にいるつもりでも、鏡を見ると重心が片側へ寄っていましたし、まっすぐ立ったつもりでも、肩の高さや胸郭の向きが違っていました。自分の中で感じている「まっすぐ」と、外から見える実際の位置が、一致していなかったのです。
鏡は、自分の感覚と実際の位置を照らし合わせるために使います。
自分が感じている位置
↕ 照合する
鏡に映る肩・胸郭・骨盤・膝の位置
↓
力の方向を少し変える
↓
新しい位置を身体内部の感覚として覚えるそのため、骨格ねじれ研究所では、最初に全身が映る大きな鏡を用意するよう勧めています。身体の細かなずれを感じ取れるようになるまでは、感覚だけに頼らず、鏡で見た位置との違いを何度も確かめ直す必要があります。
整体やマッサージと、自分で動かす練習の役割
外からの施術と内側からの運動は、役割が違うと私は考えています。
| 外部からの施術が担える役割 | 内側からの実践が担う役割 |
|---|---|
| 張りや痛みを一時的に軽くする | 自分で動きを再現する |
| 触られて初めて場所に気づく | 内部感覚を育てる |
| 動き始めるきっかけを作る | 可動を繰り返し使えるようにする |
| 専門家から状態の評価を受ける | 日常の立位・歩行へつなぐ |
複数の診療ガイドラインでも、施術だけで終わらせず、運動や生活の助言と組み合わせる考え方が示されています。世界保健機関(WHO)の慢性腰痛のガイドラインも、マッサージや徒手療法を選択肢に入れたうえで、運動やセルフケアと組み合わせる立場です。
通院の後半から、自宅での練習を中心にした
2つの整体に、それぞれ2年半と3年7か月通いました。施術のあとは少し楽になっても、元の姿勢へ戻り、動かない場所は動かないまま残りました。私はそこに、外からの施術の限界を感じました。
2つの整体に通った2年半と3年7か月のことは、『O脚を直したくて始めた姿勢矯正系整体通院日記』と『首の痛みから始めた筋膜系整体通院日記』に日付ごとの日記として書いています。
通院の後半からは、身体を変える中心を、施術を受けることから、自宅で自分で動きを作ることへ移しました。大きな鏡で全身を確かめながら、数日ではなく数週間の単位で、それまで使えなかった方向へ少しずつ力を通していきました。
外から整えてもらう
だけではなく
自分の内側で力の方向を作る
↓
動かなかった区間を動かす
↓
新しい骨格の位置を自分で再現する骨格ねじれ研究所では、自分の中で力を作り、骨格の向きを感じながら動かして、もう一度使えるようにしていくことを、矯正と呼んでいます。
今日試せることは3つあります。
- 大きな鏡の前に立ち、肩・胸郭・骨盤の向きが自分の感覚と一致しているか確かめる。
- ずれを感じた部位を一つだけ選び、自分の筋肉でごく小さく動かしてみる。
- 力を入れた場所と、実際に動いた場所が同じかどうか、鏡でもう一度見る。
いま整体に通っているなら、施術の直後だけでなく、数日後の身体も観察してみてください。私が感じていた「戻ってしまう感覚」が見えてくるかもしれません。内側から動かす練習は、次の記事から、骨盤や胸郭など部位ごとに書いています。
参照
参考URLと参照範囲
- What does best practice care for musculoskeletal pain look like? Eleven consistent recommendations from high-quality clinical practice guidelinesBritish Journal of Sports Medicine、2020https://bjsm.bmj.com/content/54/2/79
- WHO guideline for non-surgical management of chronic primary low back pain世界保健機関、2023https://www.who.int/publications/i/item/9789240081789
- Manual therapy, exercise therapy or combined treatment in the management of adult neck pain系統レビュー、2017https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28750310/
- Comparative effectiveness of physical exercise interventions for chronic non-specific neck pain系統レビュー、2020https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33139256/
- What are the benefits and risks of manual therapy with exercise for treating neck pain?Cochrane、2025https://www.cochrane.org/evidence/CD011225_what-are-benefits-and-risks-manual-therapy-exercise-treating-neck-pain
- Treatment and Outcomes of Cervical Artery Dissection in AdultsAmerican Heart Association、2024https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/STR.0000000000000457
個別研究やガイドラインは、本記事の観察法や独自理論を証明するものではありません。本文で明示した対象・条件・限界の範囲で参照しています。
このサイトの記事は、ミトン先生の体験と研究所の考えを記録したものです。方針の全文はサイトの方針をご覧ください。