立っているだけで格好いい人がいます。踊り始める前の、ただ歩いているだけのときでも、身体に流れがあるように見えます。
以前の私は、それを見せ方の技術だと思っていました。ポップダンス(筋肉を瞬間的に弾いて動きを止める「ポップ」を軸にしたストリートダンス)やアニメーションダンス(コマ送りの映像のように動いて見せるダンス)で、片方の指先から入った波が手首、肘、肩を越え、胸を通って反対の指先まで抜けていくのを見ても、ダンサーだけが身につける特殊な技術か、生まれつき関節が柔らかい人だからできるのだろう、と考えていました。
ここで言う「ウェーブ」は、この腕を通す波のことです。両腕を左右に広げ、片側から反対側へ一本の波を渡す動きで、日本のダンス教室では「ハンドウェーブ」、英語圏では「アームウェーブ」と呼ばれることが多いです。
けれども、自分でアイソレーション(胸・首・肩など、身体の一部だけを選んで動かす練習)やこのウェーブを練習してみると、見え方が変わりました。
あの動きには、振付を覚える技術のほかに、指、手首、肘、肩、そして肩甲骨と胸郭を一つの塊にしないで、細かく分けて動かせる身体が要る、と今は考えています。下の図は、上腕から肩まわりを通って背中へ動きがつながる様子を、服の上から見える範囲で、背中側から描いた模式図です。
腕は、肩で胴体に直接ついているわけではありません。肩甲骨という平たい骨を介して、胸郭の上に乗っています。次の図は、その道を波が通っていく様子を三つの瞬間で描いたものです。左から順に、波の山が左の肩、胸、右の肘にある瞬間です。
腕のウェーブで起きていること
腕のウェーブを外から見ると、腕全体がゴムのようにうねっているように見えます。でも、骨がしなっているわけではありません。
実際には、動きの「山」を隣の関節へ順番に受け渡しています。腕のウェーブを調べた動作研究(Brown ほか 2021年)では、この波を指、手首、肘、片側の肩、反対側の肩、肘、手首、指という八つの区間に分けて説明しています。ある区間が動いている間、ほかの区間はできるだけ止めておきます。止まっている部分と動いている部分の差が、外からは一本の波に見えます。
- 指の関節を折って、小さな山を作る。
- その山を手首へ送り、指は元へ戻す。
- 肘の山を見せる。肘を曲げるだけでなく、前腕と肩の向きを少し変える。
- 肩を通し、胸を越えて、反対側の肩へ渡す。
- 反対側の肘、手首、指先へ、同じ順番で抜いていく。
腕を大きく振る必要はありません。手首を動かそうとして肘まで一緒に上がるなら、手首と肘がまだ分かれていません。肩を通そうとして首や胸まで持ち上がるなら、肩だけを選んで動かせていません。
骨格ねじれ研究所では、このように身体の一部をほかの部分から分けて動かせる状態を「分節して動ける」と呼んでいます。隣の場所を巻き込まずに、狙った一か所だけを動かせる感覚のことです。
「骨が動く」という言い方について
ここで言う「骨が動く」は、骨そのものが柔らかく曲がるという意味ではありません。研究所で使っている言い方と、その意味を表にしました。
| 日常的な言い方 | この記事で意味すること |
|---|---|
| 骨が動く | 骨と骨の間にある関節を介して、隣り合う骨の向きや位置関係が変わる |
| 骨が分離する | 手首、肘、肩、肩甲骨、胸郭などを、全部一緒ではなく選んで動かせる |
| 骨が固まる | 動かせるはずの区間を使わず、複数の部位を一つの塊として動かしている |
| 骨格が整う | 一つの固定姿勢ではなく、必要な方向へ動き、無理なく戻れる選択肢がある |
肩は、一つの関節ではありません。腕の骨と肩甲骨の関節、鎖骨と肩甲骨の関節、鎖骨と胸骨の関節があり、さらに肩甲骨が胸郭の上を滑ります。これらが同時に働いて、「肩を通す」動きになります。下の図で、腕の骨、肩甲骨、鎖骨がどこで出会っているかを確かめてください。
そのため、ウェーブを「腕の筋肉を柔らかくする運動」とだけ考えると、肝心なところが抜けてしまいます。隣り合う区間の向きが少しずつ変わって、その変化を順番につなげられることが要ります。
小さい頃から踊っている人が積み重ねていること
小さい頃から踊っている人は、手首、肘、肩、胸を別々に動かす練習を繰り返しています。鏡を見て直し、音に合わせ、ある部分を止めたまま別の部分を動かします。その積み重ねで、身体の細かな場所を感じて動かす経験が増えていきます。
たとえば、肘を動かさずに手首だけを返す。肩をすくめずに肩甲骨だけを持ち上げる。片側の肩を戻しながら、反対側の肩を持ち上げる。そうやって一つずつ覚えた動きを、最後に一つの波へつなぎます。
私は、多くの人が小学校低学年頃までに、使わない場所を一つの塊として固め始めるのではないかと考えています。ただ、これは研究で年齢が確かめられた話ではなく、私自身の身体の変化と観察から考えた仮説です。
研究では、ダンスや固有感覚(目を閉じても自分の手足がどこにあるか分かる感覚)の訓練によって、姿勢の制御や身体の感覚、動きの学習が変わりうることまでは確認されています。大人になってからでも動きの学習は起きるので、子どものうちに始めないと取り戻せない、という話ではありません。
大人になってからウェーブを練習したとき
大人になって初めてウェーブをやると、頭では分かっているのに身体が動かないことがあります。
私にとっては、振付を覚えることより、長いあいだ一緒に動いてきた場所をもう一度分けることのほうが課題でした。練習でよく起きる代わりの動きは、次のとおりです。
| やろうとした動き | 起こりやすい代わりの動き | そこから見えること |
|---|---|---|
| 手首の山を作る | 肘まで一緒に上がる | 手首と肘を分けて動かせていない |
| 肘の山を見せる | ただの曲げ伸ばしになる | 前腕の回転や肩の向きの変化が抜けている |
| 肩を通す | 肩をすくめて止まる | 肩甲骨が胸郭の上を滑る余地を使えていない |
| 胸を越える | 反対側へ渡らず、途切れる | 片側の肩を戻しながら、反対の肩を受け手にできていない |
| 波をつなぐ | 腕全体が一緒に振れる | 関節ごとの時間差がなく、波を区間へ渡せていない |
初めての人は肩から反対の肩へ移るところで一度止まりやすいこと(Brown ほか 2021年)、上達した人ほど手首より肘と肩甲骨の動きが大きいこと(佐藤ほか 2010年)が、動作の研究で報告されています。どちらも少人数の研究です。腕の先だけ器用に動かせても、肩甲骨と胸郭が塊のままだと、波は胸を越えにくくなります。
私は、この動かなさを「歪みと戦う」と呼んでいます。外から見れば小さなぎこちなさでも、身体の中では、片方へは動きやすく反対へは動きにくいという大きな左右差が隠れていることがあります。私の場合は、ウェーブを練習していて、胸郭と首がかなり一塊になって動いていたと分かりました。
固まった場所を大人になってから動かすには、私の場合、それなりの力が要りました。といっても、勢いで肩や首をねじるわけではありません。鏡で動きを見ながら、自分で加減できる範囲の力をじわっとかけ、代わりに動いてしまう場所を減らしながら、動く範囲を広げていきます。
胸のところで波が止まるとき
波がいちばん止まりやすいのは、胸を越えるところです。ここで胸を大きく突き出そうとすると腰まで反ってしまい、波は消えます。
下の図は、波の山がちょうど胸にある瞬間です。左腕はもう波が通り過ぎて力が抜け、右腕はまだ待っています。胸では、先に通った側の肩甲骨を収めながら、反対側の肩甲骨へ動きを渡します。
肩甲骨と胸郭を別々のものとして感じられるようになると、どこで波が止まっているのかを自分で見つけやすくなります。ただ、肩甲骨を動かせば必ず波が通る、とまでは言えません。
立っているだけで格好いい人の身体
最初に書いた話に戻ります。プロのダンサーには、踊り始める前から格好いい人がいます。立っているだけでも、歩いているだけでも、身体に流れがあります。
固まっていた自分の身体を動かし直すうちに、私はこれを見せ方の技術だけの話とは思わなくなりました。下の図は、二つの立ち方を並べたものです。体重のかかり方と、次にどちらへ動けるかが、左右で違います。
私が見る限り、格好よく見える人は胸を張っているだけではありません。頭、胸郭、肩甲骨、骨盤、脚の置き方に無理が少なく、それぞれを分けて動かすことも、滑らかにつなぐこともできます。立っている時点で、次の動きへ移れる状態になっています。腕を通る波も、その立ち方の上に乗っています。
もちろん、格好よさのすべてを骨格で説明することはできません。音の取り方、筋肉の協調、重心移動、表情、衣服、長年のスタイリングも関係します。
ただ、骨格が動きにくいままだと、形をいくら真似しても別の場所に力みが出るので、骨格は技術を自然に見せるための土台だと私は考えています。
ダンスの練習を、固まった身体を動かし直すのに使う
アイソレーションやウェーブは、踊る人のためだけの練習ではありません。身体の中で一つの塊になっていた場所を見つけて、もう一度動かし始める練習としても使えます。順番は次のとおりです。
- 骨格模型や解剖動画を見て、腕の骨、肩甲骨、鎖骨、胸郭がどんな形で、どこにつながっているかを確かめる。
- 全身が映る大きな鏡の前に立ち、自分の感覚と、実際に起きている動きの差を見る。
- 指、手首、肘、肩を一つずつ、止めた形で作る。大きく動くことより、ほかの部位がついてこないことを優先する。
- 左右差と代わりの動きを見る。通りやすい側と止まる側、すくむ肩、上がる肘、反る腰を記録する。
- 止める時間を少しずつ短くして、波へつなぐ。一か所で折らず、動きを隣の区間へ少しずつ渡す。反対方向でも行う。
- 立つ・歩く動作へ戻す。練習で得た肩甲骨と胸郭の動きが、普段の姿勢や重心の移り方にどう出るかを見る。
鏡と骨格模型は、頭の中で思い描いている身体を、実際の身体に近づけるために使います。肩を通しているつもりでも、鏡で見ると肩をすくめているだけ、ということがあります。そういうずれを見つけたところから、身体の練習が進みます。
私がウェーブを練習する理由
私は、ダンスを上手に見せるためだけでなく、動かないと思っていた場所が動くと知って、頭の中にある自分の骨格の地図を描き直すためにも、ウェーブを練習しています。
ポップダンスやアニメーションダンスの動きは、技術を真似る前に、その技術が乗る身体をつくる入り口として役に立つと思います。
鏡の前で試せる動き
- 片腕を横へ伸ばし、指の関節だけを折って小さな山を作り、その山を手首へ送る。肘は動かさない。
- 肩をすくめずに、片側の肩甲骨だけを少し持ち上げて、下ろす。首と反対側の肩が動いていないか見る。
- 動かしたつもりの場所と、実際に動いた場所がずれていないか、鏡で確かめる。
参照
参考URLと参照範囲
- Brown DD, et al. “Visualizing the Wave: A Kinematic Analysis of the Arm Wave in Dance.” *Frontiers in Psychology*(2021)記事の参考資料https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2021.731901/full
- 佐藤ほか「ウェーブ動作から見た身体スキルを構成する因子」『理学療法科学』25巻5号(2010)記事の参考資料https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/25/5/25_5_651/_pdf
- Bakhsh W, Nicandri G. “Anatomy and Physical Examination of the Shoulder.” StatPearls, NCBI Bookshelf記事の参考資料https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK536933/
- Crosbie J, et al. “Scapulohumeral rhythm and associated spinal motion.” *Clinical Biomechanics*(2008)記事の参考資料https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17981379/
- 123street「ハンドウェーブ」(日本語の基礎解説)記事の参考資料https://123streetdance.com/basic/handwave/
- Brambilabong “How to Wave | Popping Arm Wave Tutorial”記事の参考資料https://www.brambilabong.com/blogs/popping/how-to-dance-arm-wave
- Seo HG, et al. “A Systematic Review of the Learning Dynamics of Proprioception Training: Specificity, Acquisition, Retention, and Transfer.”(2023)記事の参考資料https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37864458/
- Aman JE, et al. “The Effectiveness of Proprioceptive Training for Improving Motor Performance and Motor Dysfunction: A Systematic Review.”(2022)記事の参考資料https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36188962/
- Dance Zone Ko(ダンサー裕美)YouTubeチャンネル。ダンス練習の着想資料記事の参考資料https://www.youtube.com/@dancezoneko
- ダンス・身体操作の動画を集めたYouTubeプレイリスト。実践上の着想資料記事の参考資料https://www.youtube.com/playlist?list=PLpgteAKgNvytqRbRfaQLAM-hE4aJy4tI3
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